コラム/インタビュー

万博をもっとおもしろく!

第五回

【モンタージュ落合正夫×CEKAI井口皓太】
多様な“アバター”が見せる、「アイディアの出会い」とは?

【モンタージュ落合正夫×CEKAI井口皓太】多様な“アバター”が見せる、「アイディアの出会い」とは? 【モンタージュ落合正夫×CEKAI井口皓太】多様な“アバター”が見せる、「アイディアの出会い」とは?

ドバイ万博が開幕し、日本館の全貌が明らかになってきたいま、展示への期待は高まるばかり! 日本館のテーマ「アイディアの出会い」って一体どんな体験? それによって私たちは何を得られるのか? 今回は、演出を手がけたチームのクリエイティブディレクター/ステージディレクター・落合正夫さんと、クリエイティブディレクター/モーションデザイナー・井口皓太さんのお2人にクリエーションの舞台裏を伺うことで、日本館の魅力により深く迫っていきます。

アイディアを集めて、もうひとりの自分に出会う

落合

展示は6つのシーンで構成されています。来場者は各シーンを進むなかで、自分の感性でルートを選択したり、回遊して好きな視点を発見したりしながら、その“行動”によって得られる「エレメント」と呼ばれるものを、観覧用のスマートフォンに集めていきます。それが集まると、もうひとりの自分ともいえる「アバター」が誕生し、最終的には日本館のテーマである「アイディアの出会い」の体験につながる、という流れになっています。

自分の感性に従って好きなルートを選び回遊する

井口

来場者は、アバターを通してさまざまな要素で自分の身体が成り立っていることを感じ、生まれた場所や年齢、性別に関係なく、他者と共通の興味・関心があること、逆にまったく別の部分があることを知ります。「アイディアの出会い」を感じてもらうために、まずは自分自身のアイデンティティーや、他者の考え方を受け入れるためのマインドセットをしていくイメージです。「アイディアの出会い」そのものを体験してもらうことも大事ですが、その前の準備段階が日本館では丁寧に設計されているように思います。

落合

まさに、日本が歩んできた「出会いの物語」を見せる前半のシーンがそうです。文化が最終的に流れ着く大陸東端の島国であるという地理的な特性と、多様な自然環境を持つ環境で培われた多神教的な感性によって、世界的に見てもユニークな文化を築いた日本は「アイディアの出会い」の実例の宝庫です。でも、演出として「世界の課題に対してこうすべきだ」、「日本のこういうところに学ぶべきだ」と示すことはしていません。あくまで、日本の長い歴史のなかのさまざまな出会いを語ることで、人と自然、人の心と心、あるいはまったく違う文化と文化の「出会い」への可能性を伝えています。

井口

日本の文化を知ってもらうのがメインではなく、自分の国だったらどういう課題があるだろうといった、自分ごとと照らし合わせながら展示をまわってもらう設計ですね。日本館のなかに限らず、万博から帰ったあとも問題解決のために語り合えるような、「アイディアに出会うための身体」になってもらうことを重視している。だから日本館は、コロナ禍や言語の壁を踏まえて、基本はデジタルを使った体験ではあるものの、たとえば「お辞儀をする(挨拶をする)」といった日本の精神性みたいなものや、「一緒に歩く」という人間の基本的なコミュニケーションをフィジカルな体験として展示に入れよう、という感覚がスタッフに共通してあったと思います。

落合

おっしゃるとおりで、「アイディアの出会い」に向けて他者がつながっていくためには、身体を動かすとか、声を出すとか、行動をマネしてみるとか、そういうことが第一歩だと思っていました。そのうえでテクノロジーもある。日本館では、無数のコンテンツのなかでさまざまなテクノロジーを体験できますが、それらを包括し、幽玄を演出するミストにはとくに注目してほしいです。ミストが来場者と来場者の境界を溶かし、また、日本館が伝えたいメッセージをより来場者の五感にうったえるものにしてくれたらいいと思っています。

自分と違う、多様な考え方に出会う

井口

エレメントから誕生したアバターは、最終的にシーン5で「ランド」と呼ばれる4つの大地に落とし込まれます。ランドは壁面を360度ぐるりと囲む大きな絵で、エレメント、アバターとともに16名の若いクリエイターたちが力をあわせてデザイン・制作しました。じつは、4年後の大阪・関西万博につながるような20代のクリエイターたちを巻き込むことを、僕は今回重要視していました。それ自体が、ダイバーシティーを体現してくれると考えたからです。

16名のクリエイターによって制作された「LAND」

落合

実際、井口さんたちがデザインしたアバターは、これまで見たことがないようなものでした。展示の演出をするうえで、僕は日本についてさまざまなことをリサーチしましたが、それで表現することは僕の解釈に過ぎません。たくさんの人に参加してもらい、さらに再解釈してマッシュアップしていくということが、まさに「アイディアの出会い」だと思いました。

アバター レベル1のイメージ (Art Direction : NEW)

井口

そうですね。正直にいうと、落合さんが古典的な日本をシーン1・2で表現したのに対して、若いクリエーターたちが表現したエレメントのなかにはどうそこにつながるのか、訳がわからないものもあったと思います(笑)。でもそれが、あぶり出された“いまの温度感”というか、ある種の新しい日本文化といえるのではと思って。だから僕は、「正直わかんねぇな」というのを大事にしました。国際イベントってきっと、普通はみんながわかりやすいもの、みんなにとって優しいもの、伝わるものということが意識されるのかもしれませんが、それをやりすぎるとアップデートしていかない気がします。

落合

たしかに、僕も若い人たちのクリエーションを見て「これ、かっこいいのかな……」と思うことがあります。ただ、僕らは伝統的なものに対しても「理解できない」と思うことがあるはずです。たとえば『古事記』は本当に訳がわからなくて、「なんでそうなるの?」の連続なんですよ。「なんでいきなり死ぬんだ」とか、「なんでいきなり変身しちゃうの」とか。でもすごく面白い。人が思ってもみなかったものをつくって、「こういう見方もある」という感覚に変えちゃう力がある。そういう変化を重ねて、スタンダードになってきたんじゃないでしょうか。井口さんたちがつくったものにも、そういう力があると思っています。

井口

2025年の大阪・関西万博のホスト国として、ドバイ万博ではそういう期待が集まるような仕掛けをちゃんと見せなければならないと思っています。

次の時代に続く、新しい出会いを許容する

井口

ドバイ万博で、普段交わらないようなクリエイターたちが360度の壁面を描き、つなげたことは、2025年の大阪・関西万博にとってもとても重要な機会だったと思います。前述したように、国際的なイベントにおいては旧来的なやり方や考え方があらわになることがあって、若い子ほど興味を持たないだろうと危惧していたからです。ドバイ万博 日本館のテーマは「アイディアの出会い」ですが、それをどこまで本当に許容する覚悟があるのか、と突きつけられている気がしていました。

落合

来場者が体験することもそうですよね。子どもが約1クラス分、30人いたら、たぶんみんなそれぞれ全然違うことをする。でも、それぞれの違ったエレメントがシーン5で全部一緒になって4つの大地を構成するので、違うことをする人がいるほど面白いんじゃないでしょうか。

井口

そうですね。簡単にいうと「スタンプラリー」なので、シーン5までの行動が集団でそろってしまうと、同じようなエレメントの組み合わせになって、結局は似たようなアバターが生まれてしまう。人と違う体験をすることで、結果的に“違うもの”がビジュアルとして出来上がるはずなんですよね。

落合

アバターが違うとか似ているとか比べる視点を持ったり、ミストの向こうに自分とは違う他者の存在を感じたり、それだけで生まれる出会いもあると思います。「挨拶をする」といったフィジカルな体験を入れ込んではいますけど、僕自身、他の来場者に「イエーイ!」なんて絶対できないと思いますし(笑)。別に言葉を交わしても交わさなくても、それぞれでいいんじゃないですか。

井口

ただ走り回っている子や、じっくりと一ヵ所を見て考え込んでいる子がいてもいい。それぞれ違う体験がたくさんあって、むしろ落合さんが設計しきっていないところでアイディアが生まれたり出会いにつながったりしてほしいということしょうか。

落合

そうですね。多様な体験が生まれて、最後には全部一緒にランドになって、「アイディアの出会い」として許容する。

井口

思いもよらない考え方を許容することが、課題解決を実現するということですね。つまり、「アイディアの出会い」には多様性が紐づいている。クリエーターにとっても来場者にとっても、アイディアを出会わせるために自分を解放する、他の人を受け入れるというハードルがありますが、私たちがそれを本当に許容できるという姿をしっかりと見せることで、若い世代が2025年の大阪・関西万博にも興味を持って参加してくれたら嬉しいです。

プロフィール

落合 正夫

株式会社モンタージュ
クリエイティブディレクター
/ ステージディレクター

アニメーター、CG デザイナー、VFX ディレクターを経て、プロモーション映像、イベントやインスタレーションの演出家として活動。 ミラノデザインウィーク、CES、モーターショウ、ゲームショウなど、国内外のプロジェクトに参加。

作品歴・受賞歴

Milano Salone「KUKAN 7dimensions」
Milano Design Award 2016 ピープルズチョイス賞
Milano Salone「Erectronics Meets Crafts」
Milano Design Award 2017 ベストストーリーテリング賞
映文連アワード2017 経済産業大臣賞
Milano Salone「Air Inventions」
Milano Design Award 2018 ベストテクノロジー賞
「FUERZA BRUTA WA 空間演出」
DIGITAL SIGNAGE AWARD 2018 DSA10 周年作品賞 / クリエイティブ部門賞 / エンターテインメント部門賞
2018 CES Panasonic「MEET MR.MATSUSHITA」
映文連アワード2018 経済産業大臣賞、i賞

井口 皓太

CEKAI
クリエイティブディレクター
/ モーションデザイナー

1984年生まれ。’08年武蔵野美術大学基礎デザイン学科在学中に株式会社TYMOTEを設立。
’13年にクリエイティブアソシエーションCEKAIを設立。
動的なデザインを軸に、モーショングラフィックスから実写映像監督、
また、チームビルディング型のクリエイティブディレクションを得意とする。
2020年にはオリンピック・パラリンピック大会史上初となる「東京2020 動くスポーツピクトグラム」の制作を担当。
開会式典ではVideo Directorとして参画し、同大会のドローン演出3Dアニメーションも制作している。
主な受賞歴に2014東京TDC賞、D&AD2015yellow pencil、NY ADC賞2015goldなど。
京都芸術大学客員教授、武蔵野美術大学非常勤講師。

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