コラム/インタビュー

万博をもっとおもしろく!

第六回

【宇宙飛行士 山崎直子 × 見立て作家 田中達也】
見方を変えれば世界が変わる! 課題解決に導く「宇宙」と「ミニチュア」、2つの視点

見方を変えれば世界が変わる! 課題解決に導く「宇宙」と「ミニチュア」、2つの視点 見方を変えれば世界が変わる! 課題解決に導く「宇宙」と「ミニチュア」、2つの視点

先端技術や文化・芸術など、世界各地から多様なアイディアが集う、万博。 このドバイ万博、そして日本館でも、地球規模の課題解決に向けたさまざまな取り組みが紹介されています。 今回は、その日本館の展示シーン3「現代日本のテクノロジー」から、課題解決のための“視点”を探るべく、 日本の伝統文化「見立て」によるミニチュア展示作品を担当した田中達也さんと、 宇宙技術についてはこの方、日本館PRアンバサダーでもある宇宙飛行士・山崎直子さんにお話を伺いました。

ミニチュアで見る世界と、宇宙から見る世界

田中

僕の作風はみんなが知っているものを別の風景に変換する、要するに「見立て」です。ドバイ万博 日本館では、展示シーン3で、「今のソリューション」をテーマに、都市・海・宇宙・大地の4つのエリアに分けて作品を制作させていただきました。詳しい仕組みを知らなくてもそれぞれのソリューションがきちんと伝わるよう、分かりやすく見立てるのが今回一番苦労したところです。たとえば、はやぶさのターゲットマーカー。「そもそも、はやはぶさの形は世界でどれくらいの人が知っているのだろう」、「ターゲットマーカーの形をどれくらい知っているのだろう」というところから考えました。そこから、ターゲットマーカーを小惑星にうまく着陸させる技術はお手玉の仕組みがヒントになっているという話に行き着いて、お手玉をモチーフにすることにしたんです。お手玉には派手な色も地味な色もあるので、「小惑星に見立てられるな」と思いました。

日本館 シーン3展示 はやぶさ2紹介作品「宇宙を手玉に取る」

山崎

展示を見ただけでもワクワクしましたが、実際に田中さんから説明を聞いて、どういう思いが背景にあったのか知ることができました。はやぶさとお手玉の組み合わせというのは、当時私も開発者の方から伺って 「なるほどな」と思ってはいましたが、それをこのように日本文化と融合させて示してくださって嬉しいです。UAEの火星探査機を打ち上げたH-ⅡAロケットも展示にありますね。

田中

設計図や資料を作成する際、失敗するとその用紙をクシャクシャにすることがあるじゃないですか。そうして失敗を重ねて、丸めた紙がどんどん山積みになった苦労の先にロケットが打ち上がった……というのを表現しています。

日本館 シーン3展示 H2Aロケット紹介作品「成功は試行錯誤の積み重ね」

山崎

単純に、ロケット発射の時の水蒸気の様子を模しているだけではなく、「月日や想いの積み重ね」を表現してくださったんだなと分かり感無量です。

田中

仕組みを知らなくても伝わるような作品にするというのは、宇宙エリアに限らず、全体を通して意識したことです。海エリアの、津波警報システムも相当苦労しました。マイナスのイメージがある津波の風景ですが、少しでも面白いと思ってもらえるものにしたかった。そこで、あえて「ドミノ倒し」にしました。この警報システムは「津波を止める」ものではありませんが、「津波から逃げる」ことができる。そのニュアンスを含めて伝えるために、ドミノ倒しが倒れる“途中”の風景までしか見せていません。

日本館 シーン3展示 津波警報システム紹介作品「倒れても大丈夫」

山崎

田中さんが作品を通して伝えているように、「自分が今見ているだけが世界のすべてじゃない」、「世界はもっと広くて、いろいろな視点がある」ということをドバイ万博で感じてもらえるといいですね。私の場合、宇宙に行くことで「宇宙は特別で、憧れの場所」という考え方が変わりました。無重力空間で上も下もないなか、真っ暗な宇宙に光る地球を見上げると「地球のほうが憧れの場所だ、特別な場所だ」と感じたんです。

課題解決のヒントは「視点を変える」こと

田中

宇宙から地球を見ると特別なんですね。宇宙といえば、コーラって宇宙っぽくないですか? 炭酸の粒が星っぽい。仮に宇宙がコーラだとして、そのうちの炭酸一粒くらいが地球。だから宇宙からすると、地球はその程度かと思っていました。同時に、ほかに宇宙人がいるような星が見当たらないことを考えると、やはり特別なのかなと思うときもあります。

山崎

「宇宙はコーラっぽい」という発想はとても面白いです。どんな感じだろうと想像してしまいました(笑)。 そうですね、その見方はどちらもあると思います。広い宇宙のなかで引いて見ると、地球は青い星だということがわからないくらいの点にしか見えないので。砂粒ひとつ、泡ひとつくらいの感じがします。でも近くで見ると地球の特別さが際立ってきます。宇宙から地球に戻ったときは、重力の重さにびっくりしました。紙1枚が重い。話すたびに自分自身の舌が重い。頭が漬物石のように重い。これが地球なんだ、自然なんだと思いました。そよ風や緑の香り、土の感触1つひとつがすごくありがたく思えたことが印象深かったです。地球から離れて宇宙を知ることで、逆に地球のことを知るといいますか。いままで見えていた景色が違って見えました。海外から日本を見るとまた違って見える、というようなことも同じですね。

© NASA

田中

まさに「見立て」です。マクロでもミクロでも似ているものが結構存在するのかもしれませんね。人間の細胞を拡大すると宇宙のようになっているという話や、航空写真で都市を見たときの道のつながり方が集積回路にそっくりという話もありますし。考えれば考えるほど、面白いつながりを感じます。

山崎

共通点があって嬉しいです。ドバイ万博でも、いろいろな文化や技術、思いが集まったところに身を置くことができるので、そこでさまざまな視点を感じてほしいと思います。

田中

それと同時に「同じ人間だな」というのも感じてもらえるといいですね。僕はInstagramをメインに作品を発表していますが、フォロワーの7割は海外の方です。だから、作品をつくるうえでは、どの国の人にもわかるようにということを意識しています。たとえば、コロナ禍のオリンピックをイメージして、青いマスクをプールに見立てた作品をつくりましたが、いろいろな国のニュースでシェアされ、どの国の人も「まさにいまのオリンピックを表現している」とコメントしていました。共通の課題や問題に対して世界がひとつになった感じがしました。それはドバイ万博 日本館のシーン3も同じです。日本人がつくったものだけれど、日本人だけに通じるのはなく、いろいろな国の人が「私もそう思う」と感じてもらえるのが作品の感想としては嬉しいです。

山崎

「みんな同じ人間」という田中さんの思いにとても共感します。とくに宇宙船のなかはいろいろな国の人と衣食住を共にして仕事をするので、「みんな宇宙の一部だよね」、「みんな地球に住んでいる同じ仲間だよね」という感覚になれる。宇宙船のなかにあるものは限られていて、あるものでなんとかするしかないので不便ですが、みんなで試行錯誤するうちに「こんなこともできるんだ」という発見がある。だんだんと「これだったらこんなことができるかな」と考えるのが楽しくなってきます。

田中

新しい技術も大事ですけど、アイディアって結局は組み合わせ。既存のものを工夫する力で思ってもみなかった新しいものができますよね。僕がやっている「見立て」も何かに行き詰まらないと出てこない発想だと思います。「こうじゃないといけない」と考えるとたぶん行き詰まるけど、意外とすでに存在するものにヒントがあるんです。たとえば、子どもたちの“ごっこ遊び”では、遊びたいときに玩具がなくても、そこにあるもので「見立て」を始めます。おままごとで、実際にハンバーグをフライパンで焼くわけではなく、丸めた紙でハンバーグを表現して遊ぶというのがそうです。そんな風にあまり難しく考えず、いまあるものを集めて試してみると、物事の解決につながることもあると思います。

山崎

そうですね。いま世界にはいろいろな課題がありますが、それを地球上だけで解決するのではなく、ちょっと宇宙に目を向けてみるのもいいと思います。たとえばエネルギーや資源にしても、地球上だけで考えると閉塞感が出てきてしまいます。まだ具体的な道筋があるわけではありませんが、いざとなれば宇宙があるという未来への可能性を残したいと、私は宇宙に携わりながら感じています。ちょうどドバイ万博でも「スペース・ウィーク」という期間があって、宇宙と地球の将来について、かなり幅広く扱うイベントが目白押しです。私もいろいろなトピックで参加する予定です。

大阪・関西万博で見せたい日本の“粘り強さ”

山崎

前述した火星探査機の打ち上げだけでなく、数年前から日本とUAEは宇宙教育について深い関わりを持ってきました。その中でUAEの関係者の皆さんが強調していたのは、技術を培っていくことはもちろん、それだけではなく今後数十年に渡って国を担う人を育てていきたいということ。極限の状態の宇宙にはたくさんの課題があるので、それを解決しようとする人が育っていくことが、すなわちUAEのさまざまな課題を解決するうえでも役立つはずだと。だから宇宙に力を入れていきたいのだとおっしゃっていました。私もそれは大切なことだと思います。実際、日本はUAEの学生を受け入れて、宇宙の技術をハンズオンで提供するなど、教育プログラムを始めています。

田中

ドバイ万博でも新しいコラボレーションが生まれるでしょうか?

山崎

生まれたらいいですね。それがさらに2025年の大阪・関西万博につながって、「あのときのコラボでこのプロジェクトができました」みたいな展開を期待します。

田中

大阪・関西万博につながると面白そうですね。

山崎

日本は宇宙技術で尖ったものを持っていると見られることが多いです。ロケットから人工衛星まで幅広くやっている総合力もありますが、それだけで見るとアメリカやロシアといった大国がどうしても強くなってしまう。けれど、「はやぶさ」とか「はやぶさ2」のような「サンプルリターン」は日本が最先端。あとは「宇宙エレベーター」などもじつは日本が世界の先を行っていて注目されています。惑星探査機・火星探査機とは違って、小惑星に着陸するはやぶさは、頃合いを見て近づいては止まり、少し戻ってはまた近づいて、といったことを何回も、何十回も繰り返し、「よし、ここだ」という場所に止まります。そうした粘り強さは日本が群を抜いていると思います。

田中

粘り強くやるのは面白いですよね。僕が毎日やっている作品づくりも少しずつよくなっていく過程が楽しい。それが日本人ぽいのかはわかりませんが、いきなり本番というよりは、ちょこちょこ進めて最終的にいい結果につながるほうが向いている気がします。

山崎

はやぶさと、ものすごく通ずる部分があります。

田中

そうですね。僕ははやぶさ型だと思います。外国の方に「クレイジー」といわれるくらいの粘り強さなので(笑)、日本はそれを大阪・関西万博で見せられたらいいんじゃないでしょうか。

山崎

宇宙でも、地球の課題解決でも、他の国が諦めてしまいそうなところを切り開いていくのが日本の尖った部分。それをもってみんなで協力していくような形が提案できればいいと思います。

プロフィール

山崎直子

山崎 直子

宇宙飛行士
日本館PRアンバサダー

2010年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションSTS-131に従事した。現在は、内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人スペースポートジャパン代表理事、日本ロケット協会理事・「宙女」委員長、宙ツーリズム推進協議会理事などを務める。

田中達也

田中 達也

株式会社MINIATURE LIFE
ミニチュア写真家/見立て作家

ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。 2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネット上で発表し続けている。 国内外で開催中の展覧会、「MINIATURE LIFE展 田中達也見立ての世界」の来場者数が累計150万人を突破(2021年7月現在)。 主な仕事に、2017年NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバック、 日本橋高島屋S.Cオープニングムービー2020年ドバイ国際博覧会 日本館展示クリエーターとして参画、など。 Instagramのフォロワーは330万人を超える(2021年10月現在)。 著書に「MINIATURE LIFE」「Small Wonders」「MINIATURE TRIP IN JAPAN」「MINIATURE LIFE at HOME」など。

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