コラム/インタビュー

万博をもっとおもしろく!

第七回

【建築家 永山祐子 × デザイナー 森永邦彦】
建築とユニフォームが体現した、“つながる万博”

建築とユニフォームが体現した、“つながる万博” 建築とユニフォームが体現した、“つながる万博”

今回対談を行ったのは、日本館の建築設計を手掛けた永山祐子さんと、日本館アテンダントの公式ユニフォームをデザインした森永邦彦さん。 プライベートでも交流があるというお2人ならではのお話には、建築やユニフォームに込められた思いはもちろん、日本が世界に向けて発信すべきこと、これからの万博が目指すべきかたちのヒントが詰まっていました。

建築とユニフォームに込められた万博のテーマ

永山

まずはドバイ万博のテーマである「心をつなぎ、未来を創る」から、「つなぎ = コネクト」を意識して建築の全体のテーマを考えていきました。たとえば、文化的なつながりでは「文様」があります。日本の伝統文様と中東の伝統文様に何か似通ったつながりを感じていて、麻の葉文様と、アラベスク文様を建築の構造として使いました。どちらも元は二次元文様なんですが、立体的にすることで複雑な文様が立ち現れて、正面から見ると麻の葉文様、斜めから見るとアラベスクのような複雑な幾何学文様が見えてきます。

森永

カッティングエッジなものになっていて、素晴らしいなと思いました。

永山

ありがとうございます。日本と中東はシルクロードでつながっていたんじゃないかという説もありますし、過去と未来を“つなぐ”という意味でもこの2つを使いたかったんです。また、構造的なシステムであると同時に、環境的なシステムもこの構造によって実現しています。たとえば、暑い国なのでなるべく陽を遮らなきゃいけないということで、ファサードに膜を張っています。膜の建築自体は、1970年の大阪万博から使われてきたものではありますが、今回、小さく細切れにすることで風を通し、その風で少しはためく様が表現できたことで、繊細な膜の建築になったかなと思います。あとは「水盤」ですね。意匠としての水鏡の意味もありますが、気化熱を利用して水盤を通った風を冷やしています。膜が細切れで、建物が完全に覆われていないため、冷やされた風がなかにはいってくるという、自然のシステムを使ったサスティナブルな建築になっています。また、日本は割と水に恵まれていると思いますが、UAEはどちらかというと水に強いあこがれをもって見ているところがあり、この水を切り口に2つの文化を対比できないかということも考えました。

森永

デザイン自体は幾何学のエッジが立っていながら、自然と融合しているのが美しいです。ユニフォームは建築ありきでつくりましたので、この建築のコンセプトをユニフォームに落とし込んでいます。

永山

日本館のプロジェクトは「建築」が先行していましたからね。

森永

はい。建築で「コネクト = つながり」をテーマにしていたので、ファッションに存在するさまざまな境界を、ユニフォームで越境して、つながりをつくっていこうと思いました。たとえば、建築で麻の葉とアラベスクを共存させていたことに準じて、ユニフォームのジャケットは丸・三角・四角があわさってつくられる、ハート型の連鎖を模様にしました。これは、中東のアラベスク文様と日本の和柄が共存した柄に見えるようになっています。一見すると真っ白ですが、光の角度によってさまざまな色に変化します。どの角度で、またどのような環境で見るかによって洋服の色が生まれる、“色を持たない服”を表現しました。ジャケットの白に対してボトムを黒にしたのは、中東の男性用衣装・カンドゥーラと女性用衣装・アバヤに依拠しています。いままでのユニフォームは男性用・女性用とわかれていましたが、今回はひとつのユニフォームに集約し、男女が障壁なく同じかたちを着るようにしているので、白と黒を共存させることでもその意図を反映させています。

永山

以前から森永さんのコレクションを拝見していますが、すごくコンセプトがわかりやすいし、かといってコンセプトありきになっているわけでもなく、服として素敵に仕上がっていることに毎回驚いています。今回も、日本館のユニフォームのデザインが森永さんに決まったと聞いて、どんなものが出てくるのかとすごくワクワクしていました。実物はめちゃくちゃかっこよくて、建築と並んだ様子を見たときは、言葉にできないほど嬉しかったです。

展示はもちろん、つくるプロセスにも「アイディアの出会い」がある

森永

永山さんのアイディアを元にしていますし、その空間で人が働くということを考えて生まれたユニフォームなので、いままでのユニフォーム単体よりも、建築と強く結びついているなとは思います。それが、なかなかいままでにはない点かもしれません。

永山

最初は建築だけが進んでいましたが、森永さんのユニフォームや展示内容が決まってくると、どんどんチームになっていくような感覚がありました。いろいろな人の多様なアイディアが合わさって、私の想像を超えるものになった日本館を見ると、まさに日本館のテーマである「アイディアの出会い」を体現しているなと思いました。

森永

「アイディアの出会い」といえば、僕は、ファッションとはまったく違うところにある原理や技術をファッションに取り入れることで新しいファッションが生まれると思っていて。今回も、人の身体に合わせるかたちが洋服であるならば、そこからもっとも遠い、球体のような、誰の身体にも合わないかたちからスタートしました。ジャケットに使った発色の技術も、光が当たることで起こる構造をファッションに利用していますが、普通のファッションのプリントは、なるべく光が当たらない場所で施すものです。本来、光というのは色を褪色させてしまうので、ファッションの天敵なんです。

永山

じつは、ジャケットに近い感じを建築にも出せないかなと思って、このインクを塗った膜を付けられないか、秘密で検証していたんですけど(笑)。屋外に建てられるものなので、耐久性などの問題で断念しました。

森永

でも、ジャケットと同様に、建築も角度によって見え方が多様に変わっていきますよね。僕たちは1:1のスケールで服を作るので途中で修正もできますが、建築って最後に完成してようやくスケールを感じるわけじゃないですか。本来のスケールを想像しながらつくるっていうのは、どういう感じなんでしょうか?

永山

そうですね。たしかに、私たちにとってスケールを間違えないようにするのはとても大事なことです。だから、あらゆる方法で検証します。たとえば日本館も、ホールを借りて1/1の投影テストをして、想像するスケールが身体的に合っているかというのを試しました。あとはVRも使います。3Dをつくって、建物内を自分で歩いてみました。日本館の膜って、適当に張っている感じに見えますが、陽の向きや風が入る位置を検証して、全部にアドレスを与えて、2,000枚の膜を張る場所を決めています。

森永

スケールで見ているものと実際は全然違いますか?

永山

コンピュータ上では合理的にできているけど、実際に見たときに美しいかは別問題、ということはあります。でも今回、本当にびっくりしたのが、VRで見た感覚と実際に見た感覚がほとんど一緒だったんですよね。現地の方も「Amazing!」といっていました。すごくたくさんの優秀な技術者が集まってくれたおかげです。検証するうえでも新しい技術がたくさんあるので、どれが1番実物と近いかたちの検証になるかというのは試行錯誤ですね。そういう意味で、完成したものはもちろん、プロセスのなかにある新しいテクノロジーとの出会いもまた、「アイディアの出会い」のひとつかなと思います。

キーワードは、“新しい日本らしさ”

森永

創造性であったクリエイティビティであったり、新しいものに挑戦していく姿勢が、日本の根本にある気がします。日本館に関わっていて、ファッションも建築も、新しいものが生まれてきていると感じるので、これが“新しい日本らしさ”になっていくといいなと思っています。

永山

そうですね。“新しい日本らしさ”ってキーワードかもしれません。私は日本館の建築を考えるなかで、日本らしい伝統的な技術や素材ではなく、あえてグローバルな素材を使ってどれだけ日本らしさを表現できるかということを心がけていました。普段、私たちは“日本”を意識しながら生きていませんよね。私が建築をつくるときも、あらゆる国の素材を、あらゆる国でつくってインストールしますし。そういう意味では、メイドインジャパンだけでできるものは少なくなっています。じゃあ、日本らしさってなんだろうって考えると、固有の風土からくる自然観と美意識の中にあり、それは物質によるものではないので素材はグローバルなものでも使い方など微妙な匙加減によって繊細に表現できるのではないかと私は思います。日本館だと、「風を感じる」とか「光を感じる」とか、日本人が昔から持っている自然観。森永さんも、たぶん日本の素材や固有の技術だけにこだわっていなくて、新しい技術を使って日本らしさを出しているんじゃないでしょうか。

森永

新しい素材や新しい技術は常に調べていて、それがファッションになりそうな瞬間と、「もしいま、それをこのテーマで出したら」というタイミングが一致するときがあるんです。今回は、UAEという暑い地域で開催される万博だったので、東レの熱を逃しやすい素材や、汗を吸ってもすぐ乾くような素材を使っています。一方で、男女が障壁なく同じかたちを着るというのは、和服的な考えで、着物に由来しています。洋服は、三次元の身体をきれいに包むために多種多様な立体をつくってかたちを成しますが、着物は平面。ひとつのかたちに身体が入って、腰の位置や帯の締め方といったそれぞれの着こなしで身体を包みます。そこに“球体を着る”という考えを加えることで、洋服と和服の間のようなユニフォームになりました。

永山

新しい技術を積極的に取り入れたり、服という概念を完全に一から組み上げていったり、そういうところが万博にぴったりですね。じつは万博って何かを“伝える”と共に“もらう”場でもある。いままでは単に発信装置だったかもしれませんが、本来はいろいろな方が来て、いろいろな意見が集まってくるじゃないですか。今回の日本館では、その意見が収集されると思うんです。日本館に対しての考えとか、テーマに対しての考えとか。発信しながら情報を収集して、必ず次につなげるというのが大事かなと思います。ドバイ万博も、2025年の大阪・関西万博も。今回日本館に携わったことで、万博は単発で終わらせず次につなげて、循環させて新しい連鎖をつくらないといけないとあらためて思いました。

プロフィール

永山 祐子

永山 祐子

永山祐子建築設計主宰

1975年東京生まれ。1998年昭和女子大学生活美学科卒業。1998〜2002年 青木淳建築計画事務所勤務。2002年永山祐子建築設計設立。主な仕事、「LOUIS VUITTON 京都大丸店」、「丘のある家」、「ANTEPRIMA」、「カヤバ珈琲」、「SISII」、「木屋旅館」、「豊島横尾館」、「渋谷西武AB館5F」小淵沢のホール「女神の森セントラルガーデン」など。
2005年ロレアル賞奨励賞色と科学と芸術賞 奨励賞「Kaleidoscope Real」、2005年JCDデザイン賞奨励賞「ルイ・ヴィトン京都大丸」、2006年AR Awards(UK)優秀賞「丘のあるいえ」、2007年ベスト デビュタント賞(MFU)建築部門受賞、2012年ARCHITECTURAL RECORD Award, Design Vanguard2012、2014年JIA新人賞「豊島横尾館」、2017年山梨県建築文化賞「女神の森セントラルガーデン」など。

森永 邦彦

森永 邦彦

ANREALAGE(アンリアレイジ)主宰

ANREALAGE(アンリアレイジ)主宰。1980年東京生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。2003年「アンリアレイジ」設立。東京コレクションで発表を続けた後、2014年秋、15S/Sよりパリコレクションデビュー。2019年「LVMHヤング ファッションデザイナープライズ」ファイナリストに選出。第三十七回毎日ファッション大賞受賞。

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